LT(乳酸性閾値)と並んで、長距離選手としての能力を示す指標としてよく用いられる「最大酸素摂取量」。この値は、運動能力や体力の向上において重要な役割を果たしますが、具体的に何を意味するのでしょうか? 今回は最大酸素摂取量についてまとめてみました。
・最大酸素摂取量を鍛えるとどうなるのか
・最大酸素摂取量を鍛える方法
最大酸素摂取量とは
最大酸素摂取量(VO2max)は、身体がどれくらいの酸素を取り込むことができるかを示す指標で、単位は「ml/kg・min」で表されます。これは、1分間に体重1kgあたりどれだけの酸素を取り込めるかを示しており、同じ酸素摂取量であっても、体重が軽いほどVO2maxの値は大きくなります。
例えば、体重50kgの人と60kgの人が同じ48の最大酸素摂取量を持つ場合、50kgの人は1分間に2400mlの酸素を摂取でき、60kgの人は2880mlの酸素を摂取できます。同じパフォーマンスを発揮できるのであれば、体重60kgの人が体重を58kgに減らすと、最大酸素摂取量は49.6に上昇し、パフォーマンスが向上します。さらに体重が50kgになれば、最大酸素摂取量は57.6となり、パフォーマンスが大きく向上することになります。
マラソンにおいて、体重が軽くなると記録が伸びる理由はこのためです。
ちなみに、一般的な成人が安静時に1分間あたりに摂取する酸素量は約3.5ml/kg・分程度で、運動中は最大でも安静時の10倍程度(約45ml/kg・分)になります。
最大酸素摂取量が大きいとどうなるのか
最大酸素摂取量(VO2max)が大きいということは、体内で利用できる酸素の量が増えることを意味します。
私たちは取り入れた酸素を使ってエネルギーを生み出しています。酸素を多く取り込むことができるほど、エネルギーの生成量が増え、スピードを上げて走れる距離が長くなります。これは車のガソリンタンクと似ており、タンクが大きいほど多くのガソリンを蓄えることができるため、より長距離を走行できるということです。
しかし、瞬発的な力を出すだけでは十分ではなく、ミトコンドリアの数や乳酸の酸化能力が低ければ、必要なエネルギーを効率よく作り出すことができず、運動の持続が難しくなります。そのため、解糖や乳酸閾値を鍛えることも重要です。
また、酸素を取り込んだ後、その酸素をいかに効率よく消費するかもパフォーマンスに影響します。最大酸素摂取時のスピードはvVO2maxと呼ばれ、この速度はランニングの経済性(ランニングエコノミー)に影響されます。エコノミーが良ければ、同じ酸素摂取量でもより速いスピードを出すことができます。
言い換えれば、VO2maxは「ガソリンタンク」、体重は「車体の重さ」(軽自動車なのか、大型トラックなのか)、ランニングエコノミーは「燃費」に相当します。これらを組み合わせることで、より大きなガソリンタンクを持ち、軽い車体で、良い燃費を発揮する車を目指すことが、記録向上に繋がります。
運動と最大酸素摂取量の関係
運動を開始すると、酸素摂取量は急激に増加します。強度の高い運動では、運動開始から約2分で最大酸素摂取量に達し、その後は酸素を最大限に取り込みながら運動を続けます。しかし、その強度での運動は約8分程度しか持続できず、筋肉疲労により最大酸素摂取時のスピードが落ちます。これがトラックレース後半の落ち込みに繋がります。
運動に必要な酸素摂取レベルに速やかに達することで、無酸素性代謝の関与が小さくなり、解糖によるエネルギー供給が減少します。これにより乳酸の蓄積が抑えられ、運動強度をより長く維持することが可能になります。この身体の応答を酸素摂取応答と呼びます。
インターバル+持続走のトレーニングを8週間行うと、酸素摂取応答が速くなり、無酸素性の関与が小さくなってパフォーマンスが改善されることが報告されています。特に、トラックレースのようにスタート後すぐに速いスピードが求められる場面では、この能力が重要となります。
VO2maxを鍛える
VO2maxを鍛えるためには、VO2maxの速度で走ることが必要です。定番のトレーニングとしては1000mのインターバルがありますが、注意すべきは「速く走りすぎないこと」です。最大酸素摂取時の速度(vVO2max)は決まっているため、それを超える速度で走ると、解糖によるエネルギー供給が過剰になり、乳酸を除去しきれず、本数をこなせなくなります。その結果、VO2maxに対する刺激が減ってしまいます。
1000mのインターバルでは、2分を超えたあたりからVO2maxに刺激が入ります。400mで実施する場合は、休息を短くすることで心拍数が戻り切る前に再スタートし、VO2maxへの刺激を与えることができます。ただし、5分以上の持続は負荷が大きすぎて繰り返せないため、2~5分間の持続が適切です。重要なのは、いかにVO2maxの速度での刺激時間を確保するかです。
また、インターバルのタイム設定を行う場合、ダニエルズのVDOT表を用いて自己ベストから算出することもありますが、その日に自分が走れるタイムを基に考える方が現実的です。一般的に、VO2maxのペースは3000mの平均ペースに相当しますが、自己ベストの3000mペースでインターバルが可能かと言われると厳しいこともあります。そのため、タイムにこだわりすぎず、自分の感覚や心拍数を重視することが大切です。
おわりに
VO2maxのトレーニングは強度が高く、一人で取り組むには抵抗があるかもしれませんが、トラックレースに出場する場合は必須の能力です。できる範囲でトレーニングに取り組み、自己記録更新を目指しましょう。しかし、マラソンの場合、LT(乳酸性閾値)の方が重要度が高いため、目標とするレースに合わせて鍛える能力のバランスを調整することが大切です。
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