乳酸性作業閾値(LT)とはいったい何か?
トレーニング方法を調べていると良く出てくる言葉だし、長距離選手なら意識して練習する人も多いのではないでしょうか。LTを高めることで持久力が向上し競技力アップにつながります。
LTと聞くと、しんどい練習、苦手な練習と思っている人が多いと思います。私もその一人でした。ですが、実はLTを鍛える練習はキツイ練習ばかりではないのです。ここでは、LTトレーニングについて解説し、継続して取り組むことができる練習について紹介していきます。
・LT1とLT2
・余裕を持った練習でLTを鍛える方法
是非参考にしてください。
乳酸は運動強度が上がると蓄積する
運動を続けるとなぜ乳酸の蓄積が起こるのか。
私たちはエネルギー産生にあたり、いくつかのシステムを利用しています。その中の解糖を用いた場合、乳酸が発生します。
解糖については以下の記事を参考にしてください。

運動強度が低いと、乳酸の産生量 < 乳酸の再利用量となるため乳酸の蓄積が起こりせんが、強度が上がるにつれて乳酸の産生量が再利用量を上回るようになります。そして、ある一定の強度を超えると急に解糖によるエネルギー供給が増え体内に乳酸の蓄積がはじまります。この蓄積開始時の強度を乳酸作業閾値(LT)と呼びます。
LTを超えた強度で走り続けると少しずつ乳酸の蓄積量が増え、やがてその運動強度を保つことができなくなります。
LTが向上するということは、乳酸の蓄積開始時の強度が上がるということになります。つまり、より速く走っても体内に乳酸が蓄積せず、その運動強度をより長く維持することができるようになります。そこで、長距離練習ではLTを鍛える練習を行い、乳酸の蓄積が起こらないようにすることで、競技力を向上させるのです。
もしくは、エネルギー源として糖ではなく脂質を利用する能力を鍛えることで、乳酸の発生を抑えるアプローチもあります。
LT1とLT2
さて、このLTが正確には2種類あるのはご存知でしょうか。LTにはLT1とLT2と呼ばれる値が存在します。(単位はmmol/Lで表されますが、特に気にしなくて大丈夫です)
LT1とLT2では何が違うのか。
LT1は血中乳酸濃度が2mmolを超える点。
LT2は血中乳酸濃度が4mmolを超える点を示しています。
血中乳酸濃度は安静時は1mmolですが、運動をするとこの値が少しずつ増えていきます。しかし、乳酸の産生速度とともに消費速度も上昇するため、しばらくは1mmolを少し超えるくらいの状態が続きます。そして、強度が高く(= 速度が速く)なると血液中の乳酸値が2mmolを超えるようになります。このときの速度をLT(LT1)と呼びます。その後も強度の上昇とともに蓄積が続き、4mmolとなる速度をOBLA(LT2)と呼びます。
感覚的にはLT1がマラソンペースより少し遅め、LT2がハーフマラソンペースくらいになります。(私の場合、LT1は3’45/km,LT2は3’20/kmでした)

2023年12月に測定したデータ
LT1のペースだとフルマラソンくらいは余裕を持って走ることができるけど、LT2ではハーフマラソンをなんとか走り切れるペースになります。
有名なダニエルズのメソッドではこのLT2をLTと呼んでいるため、LT走はかなり強度が高い練習となります。
LTを向上させるトレーニング
LTを向上させるにはどうすればよいか。それはLT走をすることです。トレーニング方法を検索すると必ずと言っていいほど出てくるLT走。このときに、ダニエルズのVDOTを参考にするとかなりレベルが高くなり、失敗するリスクが大きくなります。LT走は設定ペースが速くなかなかこなせない。そういった人も多いと思います。
しかし、LTはそんなに速く走らなくても向上させることが可能です。
ではいったいどうすれば良いのか。
まず、そもそもLT走の目的は何かということを考えましょう。それは、体内で産生した乳酸を酸化し、エネルギー源として再利用する力を鍛えることです。
そのため、ある程度乳酸を出した状態で走らなければこの能力を鍛えることはできないません。だから遅すぎるのは意味がなくなってしまいます。
*そもそも乳酸が出せなければ能力を鍛えられないため、前段階として乳酸を生み出すトレーニング(=解糖)が必要となります。
LT走のペース設定として、LT2のペースは運動を維持できるギリギリのペースであるため、目的に対して一番効率の良いペースです。しかしLT2を超える速度で走ってしまうと乳酸の再利用が追いつかず、その強度を維持することができないため、刺激時間が短くなってしまうリスクがあります。LT2のペースもその日の体調や気温などの要因によっても変化するためペースにこだわりすぎるのも良くありません。
とにかくLT2ペースでのペース走は強度が高く、この強度の練習を市民ランナーがトラックも使わずに一人で練習するのは至難の業になります。
挑戦しても失敗することもあり、なかなかこなせず結果的にLTの向上につながらないパターンが多くなります。
LT走はLT1ペースで取り組む
LT2は強度が高く失敗するリスクが高い。そこで、LT1付近のペースでの練習をオススメします。LT1のペースはかなりゆっくりに感じますが、LT1を超えたところから体内には乳酸の蓄積が起こるため、乳酸の酸化も起きています。もちろん効率は低くなるためLT2の練習よりも時間や距離を増やす必要がありますが、LT1付近なら失敗するリスクも減り、それも可能になります。
心理的にも練習に対して前向きに取り組めるのではないでしょうか。心理的に取り組みやすい練習というのはとても重要で、前向きに取り組めば成功することも増えるし、結果的に継続的な練習につながっていきます。
また、練習時間や距離が増えることでマラソンにつながる練習にもなります。自分の場合は3’20/kmの6000m走を早朝からやれる自信はないですが、3’35/kmで1000m×12ならこなす自信はあります。ただし、リカバリーが遅すぎると効率が落ちるため、乳酸が溜まった状態で次のスタートが出来るようにする必要はあります。
この場合、前者は6000m、20分の練習ですが、後者は12000m、42分の練習となります。この二つの練習がLT向上に対して同じ効果があるかは分からないですが、仮にLT値への刺激の総量が同じだとしても、それ以外の部分(運動時間)で身体への刺激は大きくなります。その分のリカバリーは必要になりますが、失敗を防ぎながら効率よく負荷をかけることができるのではないでしょうか。
LT1ペースの基準
ここまでのことから、LTの向上にはLT1付近の強度でボリュームのある練習をすることを提案したいのですが、LT1やLT2の正確な値を計測することは難しいです。
そこで良くVDOT表が用いられるますが、この表を参考にするのであれば、Mペース付近で練習するくらいで良いと思います。あまり速く走ることを求めず、継続的に練習をこなし続けることを意識してみてください。
もしくは心拍数を基準とすることもオススメします。運動強度と心拍数は密接に関係しているため、心拍数を基準に練習すれば、大きく外れたペースで練習をすることは減ります。最大心拍数の90%付近で走ればLT1~LT2の範囲にはまっていると思います。
これくらいのペースなら1000m×12や2000m×6などボリュームあるインターバルができるのではないでしょうか。16km程度のランニングでも良いと思います。
また、夏の時期はペースに対して心拍数が高くなります。設定ペースにこだわると練習が継続できなくなりますが、心拍数を基準に練習すれば、強度を一定に保つことができます。
とにかく重要なのは継続すること。そのためには心理的なハードルを下げ、練習頻度を上げれるようにしたほうがずっと良いです。これで失敗するリスクを減らしながら継続してLTを鍛えることができるはずです。
おわりに
もう一度おさらいすると
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LTにはLT1とLT2がある。
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LTを鍛える練習はLT1ペースで大丈夫
これまで避けていたLT練習。この機会に練習内容を変えて、楽なペースで余裕をもってLTを鍛えてみてください。
練習の目的を理解して、効率良く力を伸ばしていきましょう!
Ret’sRunning!!
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