解糖系ってなに？

陸上トレーニングについて調べていると良くでてくる「解糖系」、正しくは「解糖」と言います。この仕組み、名前を聞いても良く分からない。糖を分解する仕組み？鍛えとどうなるの？そんな疑問を解消するため、解糖の仕組みや働きについて説明していきます。

・エネルギー供給には解糖系と解糖がある
・解糖はどんなときに働くのか
・解糖を鍛えるとどうなるのか

これからのトレーニングを今までよりもグレードアップさせていきましょう！

細胞呼吸の３つのステップ
解糖系と解糖の違い
運動時のエネルギー供給のしくみ
乳酸をうまく使う
解糖能力を鍛えるとどうなる
解糖能力を鍛えるには
おわりに

細胞呼吸の３つのステップ

解糖系とは身体の代謝システムの一つです。基本的にヒトは細胞内でグルコースを酸素を用いて分解することでエネルギーを取り出しており、これを「細胞呼吸」と呼びます。このときに二酸化炭素や水が発生します。

「細胞呼吸」は３つのステップに分かれていて

解糖系
クエン酸回路
電子伝達系

となります。

一つ目は「解糖系」
解糖系ではグルコースがピルビン酸という物質に分解され、このときに少しのエネルギーが取り出されます。この反応は細胞質基質という部分で行われていて、細胞には核のほかに、細胞小器官と呼ばれる様々な器官が含まれており、ミトコンドリアもその一つです。細胞内において、そうした細胞小器官以外の部分を細胞質基質とよびます。ここにはさまざまな酵素が含まれており化学反応が起きています。

二つ目は「クエン酸回路」
解糖系で生成されたピルビン酸がミトコンドリアに運び込まれ、すべて二酸化炭素に分解されます。このときにも少しのエネルギーを取り出すことができます。

そして三つ目が「電子伝達系」
ここでは水素イオンの移動に伴って大量のエネルギーが生成されてます。また、余分な水素イオンを酸素と反応させることで水として排出しています。呼吸反応では、この段階でのみ酸素が必要とされており、酸素をもとにして水が生み出されています。

このようにしてグルコースから3つのステップでエネルギーが取り出されているのですが、トレーニングで言われる「解糖系」は実はここでの「解糖系」とは少し異なり、正しくは「解糖」といいます。「解糖系」と「解糖」同じ意味のように思えますが、違いがあります。

解糖系と解糖の違い

「解糖」とはグルコースの分解によって生じたピルビン酸を、ミトコンドリアで分解せず、乳酸に変える反応のことを指します。この反応では酸素が用いられることはありません。これは乳酸菌が行う乳酸発酵と同じで、この反応を利用してヨーグルトが作られています。「解糖」と「乳酸発酵」は同じ反応ですが、ヒトの筋肉で起こる場合を「解糖」と呼びます。この解糖によるエネルギー供給が起こることで乳酸が発生します。

では、私たちが運動する（筋収縮をおこなう）ときに、どのようにエネルギーを生み出しているのでしょうか。

運動時のエネルギー供給のしくみ

生物は、エネルギーをATPという物質として蓄えており、ATPを分解したときに生じるエネルギーを利用して活動しています。エネルギー源としてグルコース（＝糖）がありますが、正確にはこれを分解して直接活動のエネルギーとしているのではありません。グルコースを分解したときに生じるエネルギーを使ってATPを合成し、そのATPを分解して取り出したエネルギーを用いて活動を行っています。
＊つまり、一度ATPを介さないと我々はエネルギーを利用できません。

CP-ATP系

筋肉でも同様にATPのエネルギーを利用して筋収縮を行っていますが、筋肉に存在するATPは、わずか数秒間の収縮で枯渇してしまいます。そのため、すぐに消費したATPを再合成する必要があります。このとき、筋繊維内にあるクレアチンリン酸（CP）と呼ばれる物質を分解し、ATPの再合成を行っています。これがCP-ATP系と呼ばれているエネルギー供給系です。このクレアチンリン酸の分解で供給されるエネルギーによって、筋肉は約15秒間収縮を持続させることができると考えられています。

解糖

ミトコンドリアで酸素を使った代謝反応が起こるまでには時間がかかるため、筋繊維内のクレアチンリン酸が枯渇すると、次に解糖によってATPが合成されます。これによって約30～40秒間、筋が最大収縮することが可能となります。それ以上の時間筋運動が続く場合、呼吸によるATPの合成が中心となっていきます。

つまり、100ｍのような10秒程度で終了する運動の場合、ほとんどがCP-ATP系によってエネルギーが供給されることになります。400mまでの種目では、CP-ATP系に加え、解糖によるエネルギー供給が行われます。この解糖によるエネルギー供給能力が高い人（つまり、乳酸を沢山だすことができる人）ほど、1分程度の運動におけるパフォーマンスが高くなることになります。

呼吸

1分以上の運動ではエネルギー供給のメインは呼吸となります。グルコースが分解されて生じるピルビン酸や、解糖で生じた乳酸はミトコンドリアに取りこまれ分解されていきます。ミトコンドリアの数が多いほど処理できる乳酸量も増えるため、効率よくエネルギーを生み出すことができるし、体内に蓄積する乳酸量を減らすことにもつながります。

この反応によるエネルギー供給が最も多く（解糖の19倍）、生命活動に必須のしくみとなっています。

このように、３つのエネルギー供給経路があるのですが、運動時間によって３つの経路のうちどれか一つのエネルギー供給のみが起こっているというわけではなく、供給割合が変化しているというのが正しい認識になります。

乳酸をうまく使う

解糖によって生じる乳酸。今ではエネルギー源になることが一般的に知られています。乳酸は筋肉で生じた後、肝臓に運ばれ全体の1/5が完全に分解されてATPの合成に利用されます。そして、そのATPを用いて、残り4/5がグリコーゲンに再合成され再びエネルギー源となるとされています。

そのため、乳酸を素早くエネルギーとして再利用することができれば、強度を高く保ったまま長時間の運動が可能になります。

解糖能力を鍛えるとどうなる

運動に必要なエネルギーはCP-ATP系＋解糖＋有酸素系（呼吸）で供給されます。CP-ATP系は開始後すぐに枯渇するため、有酸素系が立ち上がるまでは、クレアチンリン酸の分解と解糖によってエネルギーを供給することになります。

解糖能力を鍛えると、乳酸を沢山生み出すことができるようになり、400m程度の運動における能力が改善することにつながります。

中距離や長距離種目においても、呼吸による供給では追いつかないエネルギーに関しては解糖で補うことになるため、解糖能力が高いほど補えるエネルギーも増えます。しかし、このとき生じる乳酸をうまく除去できなければ筋肉内が酸性になり、筋収縮が妨げられてしまい、運動強度を保つことができなくなってしまいます。そのため、長距離選手はこの乳酸を体内で酸化し取り除く能力を鍛えることがパフォーマンスアップにつながります。

解糖能力を鍛えるには

最後に、解糖能力を鍛えるにはどうすればよいか。

解糖能力を鍛えるには、乳酸を出す練習をすれば良いとされています。
400mのレースでは300m付近が乳酸の最大値だといわれているため、300m×5のようなレペティションに取り組むことで解糖能力は鍛えられます。このとき、リカバリーは十分に取りましょう。リカバリーが短いと、筋肉内の乳酸が除去しきれず、乳酸を十分に出し切れないまま2本目以降を走ることになってしまいます。（長距離種目ではこの乳酸除去能力も重要となります）

解糖能力で重要なのは、しっかりと乳酸を作り出すこと。リカバリーを十分に取って、レペティションに取り組んでみてください。

また、解糖は筋肉で起きる反応なので筋肉量を増やすことも重要です。自分の種目に応じた筋トレを取り入れてください。